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空間の持つ力を私は知ってしまった

– REI さん

空間の持つ力を私は知らなかった。時間、空間、エネルギー。自分軸など断捨離で出てくる言葉はすらすらと口をついて出てくる。私は断捨離9年生。2009年に断捨離がメディアで産声を上げたと同時に生活に取り入れた。断捨離セミナーに参加したのも比較的受講生も少数だった時期。ダンシャリアンの中では古参な方だと自負している。

 

断捨離セミナーに参加し、地元に仲間もでき、自身の体験も発信。ダンシャリアンとしての私は充実していた。12年間住んでいたアパートの1Kの部屋も断捨離で甦らせ、軽やかに少ない荷物でわずかに広くなったお気に入りの部屋に引っ越した。

 

もう断捨離で学ぶべき事はある程度学んだと感じていた昨年の秋、断捨離実践・徹底サポートコースの受講申し込みを目にした。もう停滞の中にいる訳でも、何かに悩んでいる段階でもない。最後にこれまでの総まとめで受けておこうか。そんな気持ちで申し込んだ。

 

しかし、決して安くはない受講料、そして九州から東京までの半年間毎月発生する航空券代、宿泊費の出費は大きかった。僅かな後悔と共に私は振り込みを行った。

 

東京に向かい、その日を迎えた。そこにいたのは半年間を共にする20名のクルーと事務局の方、そして笑顔のやました先生。「よく来たわね」の一言で6か月の断捨離航海の幕開けとなった。

 

捨てられない、片付かない。全国から集うクルーの悩みはモノだけにとどまらず、様々。そんな中、私は高みの見物のような感覚で俯瞰していた。

 

状況が変わったのは2回目。「部屋が狭いのでは?広いところに引っ越したら?」やました先生から投げかけられた予期せぬ言葉に私は耳を疑った。1Kでも一人暮らしには十分すぎる部屋に快適に住まう私にこれ以上何の課題をお与えになるのか?半信半疑だった私だが、その日の帰りの空港のロビーで既に物件を探していた。

 

翌日、気になった1LDKの2階の物件を不動産屋に見せてもらうべく申し込みを行った。内覧は2日後。全ては順調に思えた。しかし、翌日気になった部屋は既に先客に抑えられてしまった。

 

代替案を提案してくれるも、縁がなかったと言い聞かせ一度は断った。しかし思いなおし再度連絡を入れた。提案してくれたのは2階建てアパートの1階部分。部屋の広さは2DK。一人暮らしには広すぎる。借りる訳ではないと思いながらも部屋を見せてもらった。玄関を開けた瞬間、想像していなかった光景がそこにあった。広々とした空間、私の部屋にはない洗面台、ガスコンロを置くことができるキッチン、リビングと別になった寝室。1人ではもったいないくらいの空間。しかし、私はこの空間を手に入れたくなってしまった。希望していた2階ではないが、1階でも良いと思わせる何かがそこにあった。

 

セミナー代、交通費を出した私の貯金はほぼ底を突き、定期預金に手を付けて敷金礼金を支払った。部屋を借りて気づいた。電気の傘やカーテン、コンロすらないことに。時間を見つけては自分で選ぶお気に入りのものに心が躍った。確かに出費はかさんだ。しかし、既成の備え付けの部屋に住み続けていた私は、初めて自分で部屋をクリエイトする楽しさを知った。

 

全てごきげん、お気に入り、快適な生活を手に入れたはずだった。ところが、その部屋で突然私に湧き上がったのは怒り。木造の部屋の2階から聞こえる子供達の楽しい笑い声、家族の生活の音。その下に一人で住む自分のみじめさ。

 

何でこんなところに一人で!!仕事の為に住んでいる地域。好きでもない仕事。器用に立ち回る為、職場では調整役として重宝されていた。入社14年目。自活できる給料はもらえるものの、理不尽すぎる扱い。私には厳しい上司、自由に好き勝手に振る舞い、仕事を投げ出す人達。そんな人の代わりに何で私が。家に帰ってまでなぜ楽しそうな家族の下で暮らさなくてはいけないのか!!怒り。怒り。怒り。怒りはマグマのように噴出した。

 

断捨離サポート実践コースの仲間達でやり取りをするチャットに不謹慎ながら「私は会社に火を放ってやりたい」と怒りにまかせて過激な書き込みを投稿してしまった。コース受講の前日、仲間達に合うのが怖かった。しかし、温かく迎え入れてくれ、私も同じと共感してくれ、涙してくれる仲間までいた。

 

快適なはずの部屋で思いがけずこみ上げた感情に嫌でも私は向き合う事になった。リビングからキッチン、キッチンから洗面所、寝室からキッチン。1Kの部屋は考えられない室内の移動量。2DKの部屋を毎日ぐるぐると忙しく回りながらの生活が始まった。

 

すると不思議な感覚が起こった。1Kの部屋でぐるぐると堂々巡りしていた思考が2DKの部屋を動き回るうちに行動に変わった。もうベテランだから、嫌なことがあっても我慢して今の部署にいなくてはいけない。安定しているから仕事は辞めてはいけない。一人で暮らせる為の手段は私には今の仕事しかない。そんな思考が変わった。

 

住空間が変わっただけなのに、私は上司にこれまでやりたかった別の部署への移動を申し入れていた。行動が変わったら環境が変わった。行きたかった部署が1ヶ月限定で社内から臨時応援を募集しているとの事。もちろん「行かせて下さい」と希望した。

 

いつものオフィスでのパソコンの前での仕事から一転し、同じ会社内で動く仕事を経験した。止まっていた思考、凝り固まっていた思考は身体の動きと共に再び動きだし、1ヶ月間後には「この部署で今後も働きたいです」と私に宣言させた。

 

奇しくもその1ヶ月は断捨離サポート実践コース最終月と重なっていた。最終回の受講で繰りかえすやました先生との問答の中である答えがでた。狭い空間、思考、みじめな自分。一人だから我慢しなくては。節約しなくては。私を貶めていたのは、仕事でも上司でも、同僚でもなく、この私。狭い部屋に住むみじめな自分というレッテルを自ら張っていたのだ。それを象徴していたのがまさに1Kの部屋。

 

あれから半年。私は今、働きたいと希望した部署への異動を控え、忙しく業務引き継ぎを行っている。あんなに嫌だった仕事、職場、上司、同僚にも感謝の気持ちを感じながら。自分の意識が変わると不思議な事に周りも変わってきた。私ばかりやらされていると思っていた仕事も仲間と分担できるようになった。力を合わせて達成した業務改善の活動が評価され、一体感が出てきた。そんな中、異動する事を今は惜しいとすら感じる。

 

住空間を移動したら、意識が、行動が変わった。そして職場の環境までも変わり、半ばあきらめていた人事異動すら可能となった。一度は憎んだ上司が人事異動に尽力してくれた事に感謝の気持ちすら感じているのが不思議だ。

 

1Kの部屋が2DKに変わっただけなのに、そこにあったのは大きな変化と進化。空間を持つ力を私は知ってしまった。

 

想定外だったのは苦労してクリエイトした部屋をわずか7か月で引っ越さなくてはならなくなった事。新しい部屋探しがまた始まる。今度住むのは今よりも家賃の高い地域。しかし私はもう1Kには戻らない。いや戻れない。空間持つ力を実感してしまったから。

 

やました先生、断捨離を通じて交流を深めた仲間達、そして私を応援してくれた空間にありがとう。

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